床屋で働く40代の新人さん!
-
2011年4月1日
先日、髪を切りに行って来ました。
いつも行きつけの床屋があるのですが
連休前だからか、けっこう人の入りも良く
普段なら2人でまわしているのに
その日はいつも見慣れない新人が手伝っており
3人でフル稼働しているようでした。
新人さんといっても年齢的には40代中盤くらいでしょうか。
ちょっと髪の毛がボサッとしたさえないおじさんで
初対面の印象はそんなに良くなく
正直、この人に切ってもらいたくないな・・・と
待ちスペースで待っていたら
「どうぞ~」
と、みごとに新人さんの声。
やはり、私としてはいつもきってくれているお兄さんのほうが
自分のスタイルを良くわかってくれており
安心してお願いできるので、できればそうなることを願っていたのですが
そのお兄さんは別の人の頭にかかりっきりです。
しぶしぶと上着を脱ぐと
「あずかっておきますよ」と新人さん。
ここまではいつもどおりで、上着を預けると
「えっと、失礼ですがお名前伺ってもよろしいですか?」
名前を聞かれたのは初めてだったので
少々面食らいながら答えると
にこっと微笑みながらありがとうございますと
上着をかけてくれました。
なんだかいつもと違う雰囲気。
でも、悪くないなぁと。
髪を全体的に湿らせながら慣れた手つきでくしを入れていきます。
その手つきに安心感を覚えながら見ていると
「楠さんってどういう字をかきます?」
「実は自分の友達にもいるんですよ。楠さんって」
「地元ご出身なんですか?」
そんな少しのやり取りを交わしているうちに
いつの間にか、自分の中の新人さんへの抵抗感がいつの間にか消えていました。
いろいろ話しながらも、櫛とはさみを使う手は忙しく動いています。
「もうこの仕事長いんですか?」と私が尋ねると
「そうですねぇ。25年くらいになりますかねぇ」
「自分のお店とか、持たないんですか?」
と畳み掛けると
数秒答えに詰まったかのように返事が止まり
鏡越しに目が合いました。
忙しく動いていた手が瞬間とまった気がしました。
「実は自分のお店持っているんです。」
????
私の頭の中には当然の疑問が。
なぜ自分の店があるのにここで髪をきっている?
新人さんは、少し口元を緩ませると
両手は忙しく動かしながらも
自分のストーリーを手短に語り始めました。
その新人さんのお店は石川県にあるそう。
自分でお店を経営しながら、
同じ業界の尊敬する社長さんに出会い
いつかその社長のもとで経営から技術から学んでみたいという思いをもっていた。
でも自分のお店を回すのに手一杯。
そんな思いを許してくれる環境はなかった。
しかしいろいろな事情がかさなり
家庭を失い独り身になることに。
でもこれを逆に考えると自分の思いを叶えるチャンスでは?
今やらないと、一生できないし絶対後悔する。
そう思い、店を部下に任せて一人で関東のほうに出てきた。
今はその尊敬する社長の下で
何から何までやらせてもらっている。
あちこちのお店に入って、髪をきらせてもらい
雑用や物運びなども進んでやらせてもらっているんだ。
そんな話をニコニコと嬉しそうに語るのです。
その表情はいきいきと輝いていました。
「実は今日もこちらに来たばっかりなんですよ」
と話しながらも、忙しく動くはさみと櫛によって
気がつけば私の頭はすっきりと夏モードに切りそろえられていました。
さすが25年つみあげたスキル。
文句なしのできばえです。
最初のこの人にきってほしくないなという印象はどこかに
次もぜひお願いしたいという気持ちになって
ここでしばらく働いているのか尋ねると
もう、本当に日々転々としているみたいで
「これが最初で最後かもしれませんね」とのこと。
あぁ
一期一会
いつか、こうして修行を積んでまた石川の自分の店に戻る事を思って
「頑張ってください。」と声をかけ
床屋を後にしました。
年配の新人さんに
なにか大切なことを教えられました。
人にはそれぞれドラマがあり
決して先入観だけでその人を判断してはいけないと
身にしみた出来事でした。